宝石サンゴと呼ばれる赤や桃色のサンゴは、昔から世界中で愛好されてきた。奈良・正倉院には、聖武天皇の冠を飾っていた地中海産サンゴがいまに伝えられている。

 この珍宝を狙って小笠原諸島伊豆諸島周辺に中国漁船が続々とやって来ている。海上保安庁によれば日本の領海、排他的経済水域内に200隻余り。明白な違法行為であり、許されない。何よりもまず、中国側が早急に対応するべきだ。

 宝石サンゴは成長に長い年月がかかるため、乱獲は禁物だ。高知など日本近海の産地では、網の数量制限や禁漁期間の設定など厳しい管理をしている。中国の沿岸でも、捕獲は禁じられている。

 だが一方で、その美しさを求めてやまない市場がある。上海の店頭では1グラム当たり15万円以上するものが売られている。中国の漁民からみれば、海底に大金が眠っているようなものだ。出港地とされる中国南部から小笠原諸島まで2千キロ以上離れており、燃料費も相当かかる。それだけの価値があると判断しているのかもしれない。

 日本政府は厳重に対処しなければならないが、広い洋上に散らばる船を捕らえるのは限界がある。尖閣諸島警備に力を割いている現在、派遣できる巡視船に限りがある。菅官房長官が「非常に無理があるのは事実」と述べている通りだ。摘発したところで罰金が軽い点も漁民らに見透かされているだろう。

 違法行為をさせない責任はまず中国側にある。中国外務省の報道官は、取り締まりの強化を表明している。その通りの実行を求める。出港時、帰港時、取引段階、あるいは普段の指導まで、当局が関与する余地は大いにあるはずだ。

 それにしても、なぜこれほど多くの中国漁船が集中的に現れたのだろうか。長崎や宮古島の沖に時折出没していたのとは規模がまるで違う。しかも台風が近づくいまの時期だ。どんな背景事情があったのか、中国政府には併せて説明を求めたい。

 過去に中国漁船が引き起こしてきた事件は、これにとどまらない。南シナ海ではサンゴやウミガメの密漁がフィリピン政府を悩ませてきた。台湾が実効支配する金門島には中国の漁船団が侵入している。尖閣諸島沖に中国漁船が増えているのも気になるところだ

 漁船は自在に境界を越え、ときに外交問題化してしまう。トラブルが拡大したり繰り返されたりせぬよう、中国側は考えなくてはならない。