野田首相は「中国はさまざまな国からの投資を受けて発展していくのが本来あるべき姿だと思う」と述べた。
同国では尖閣諸島をめぐる対日デモが激化、日系の工場が放火されたり車がひっくり返されたりするなどの暴力行為が報じられている。また、中国の監視船は尖閣諸島周辺の海域で航行を続けている。
野田首相は、中国に対する投資意欲を失わせることは中国にとってマイナスであると指摘、中国がこれを理性的かつ冷静に理解することに期待を示した。
野田首相は中国で日本からの輸入品の通関手続きや日本人へのビザ発給の遅れなど経済的な嫌がらせとも受け取れる事態が生じていることに懸念を表明した。野田首相は「このようなことで経済の関係が冷え込んでいくのは両国にとって マイナスだ。2国間だけでなく、地域、世界にとってマイナスになる」と述べた。
日本は現在、韓国とも対立している。韓国とは竹島の領有権を争っているほか、第2次世界大戦後の補償をめぐっても論争が起きている。
野田首相は、韓国政府が外交関係の修復の条件としている要求に対して日本が譲歩する考えがないことを示した。
慰安婦問題で新たな補償を検討するかとの質問に対して、同首相は「法的には完全に決着がついている」と述べた。日本の過去の償いが十分ではないという批判が韓国内で出ていることについては、1965年の日韓基本条約、93年の官房長官の談話での謝罪、95年のアジア女性基金などといった取り組みを挙げ、「心ある日本人を逆に傷つける結果になっていると思う」と、遺憾の意を表明した。
野田首相は24日、国連総会に出席するためにニューヨークに向けて出発する。国連総会では、国際紛争の解決における「法の支配」の重要性をテーマにした演説を行う予定。首相の側近は近隣諸国との対立を念頭に置いたものと述べたが、野田首相は個別の事案を具体的に話すのは適切ではないと述べ 、具体的な国名を挙げることはないことを明らかにした。
日本政府は地域的な対立について表向き断固とした姿勢を示しながら、政府の高官は特に中国との対立を鎮静化させるための方法を模索している。最近、外交的な接触の機会が減っているが、ニューヨークで日中外相会談が開かれる可能性について、野田首相は、「チャンスがあればそういう会談があってしかるべきだと思う」と述べた。
日中対立が激化した背景には、日本政府が今月、中国が領有権を主張している尖閣諸島(中国名:釣魚島)を民間の地権者から買い取り、国有化したことがある。国有化をきっかけに中国では100以上の都市で反日デモが行われ、一部のデモが暴力行為に発展し、工場が放火されたり、略奪行為が起きたり、領事館の建物にも被害が及んだ。
日本の保険業界のトップはデモの被害を受けた日本企業に支払う保険金は最大で数百億円に上る可能性があるとの見通しを示した。中国政府は尖閣諸島周辺の海域に複数の監視船を送り込んでおり、日本の海上保安庁の巡視船と中国の監視船のにらみ合いが1週間以上、続いている。
一部の野党議員は尖閣諸島周辺の守りを強化するよう求めているが、野田首相は海上自衛隊を派遣する必要はないと考えていると述べ、軍事衝突の可能性を否定した。首相は悲観的なシナリオについて話すのはよくないと述べた。
野田首相は中国での反日デモに関連して、「(中国)政府自体は自制を求めているし、そうした行動、行為を抑止しようと試みはしていると思う」と述べ、中国の政府関係者による鎮静化努力を評価する一方で、中国政府が全体を制御するには至っていないとの見方を示した。
野田首相は暴力行為については収束したとの見方を示す一方で、中国での通関手続きの遅れが出ているということは経済分野に影響が波及する可能性がある証拠だと指摘した。ここ数日、通関手続きが遅れるケースが日本企業から報告されており、中国が経済的な報復に乗り出したとの懸念が生じている。
2010年に尖閣諸島をめぐって日中の緊張が強まった際にも、中国はハイブリッド車など日本の主要製品の製造に欠かせないレアアース(希土類)の対日輸出を規制した。
野田首相は米国の駐中国大使が乗った公用車が18日に北京で反日デモ隊に取り囲まれた事件に触れ、他の国が日本と同じような影響を受けると判断したり、投資を抑制したりする可能性があると指摘した。
野田首相の発言に先立ち、日本企業の経営者からは中国との関係を見直すことを示唆する発言も聞こえてきている。日本は中国の経済成長に大きく貢献していることから、日本政府が産業界の動きを利用するとすれば、相当大きな経済的影響力を手にすることになる。日本政府の統計によると、日本企業の昨年の対中直接投資は120億ドル(約9300億円)に上った。日本は中国にとって第2位の貿易相手国で、中国は日本にとって最大の貿易相手国だ。
野田首相のこうした発言は、外交上の緊張が経済関係にも波及する可能性があることを示唆した中国の政府高官の発言や新聞の社説を受けたものだ。ただ、中国に比べると抑えた口調だ。
例えば、中国の英字紙「チャイナ・デイリー」は「対日制裁を検討せよ」というタイトルのコラムを掲載した。コラムの執筆者は中国商務省系シンクタンクのアナリストで、「中国が万が一、対日制裁を発動することになれば、日本経済は深刻な被害を受ける。中国が失うものは比較的少ないだろう」としている。
一方、日韓の竹島の領有権をめぐる対立は日本の戦後補償の問題にまで発展した。韓国の金星煥外交通商相は国連演説で、慰安婦への新たな補償を要求するとみられている。韓国で慰安婦問題の議論に弾みがついたのは、韓国の憲法裁判所が昨年、国の指導者が日本と補償交渉をしなかったのは憲法違反との判断を下したことがきっかけだ。韓国の指導者は新たな圧力にさらされることになり、韓国政府はこれ以降2度にわたって、日本政府に協議の開催を要請したが、2度とも拒否された。
韓国の李明博大統領は、自身が先月、竹島を突然訪問したのは慰安婦問題に進展がないためだったと述べている。その後、韓国の国会は慰安婦問題について日本政府から正式な謝罪と補償を求める決議案を可決した。
野田首相は中国については、議論の余地があることを示唆した発言をしていたのに対して、韓国の補償要求は断固として拒否した。野田首相は、日韓が1965年に国交を正常化した際に、韓国が戦時中の補償についての請求権を放棄することで合意したと強調した。
野田首相はこの問題については法的に決着しているとした上で、日本政府は1995年に民間の寄付を含めた基金を設置して元慰安婦の女性に見舞金を支給したと述べた。韓国はこれについて、日本政府が直接、支払うべきだったと主張している。野田首相は日韓両国が代替案を検討する前に、韓国が基金の評価を見直すべきとの考えを示した。
日本が韓国との対立で自国の立場を国際社会に対し十分に説明していないとの批判が国内で出ていることについて、野田首相は日韓が水面下で交渉をしてきたことを明らかにした上で、「そのことを国際社会にも理解してもらわなくてはいけないと思っている」と述べた。